8)基準:IS F レーシングコンセプト

楽しさのメートル原器、IS F レーシングコンセプトを造る

南フランスの日差しが眩しい 綺麗なサーキットにやってきました。 F1チームのホームコース、ポールリカールです。

ヨーロッパの道を走り、ニュルの北コースを走って確認をした  革のマスキングをされた黒い試作車が1台、持ち込まれています。 隣のガレージでは、F1チームがイタリアGPに向けローンチコントロールの試験の 準備をしています。今日は共同でここを走るのです。

このコースは、必要に応じてコースレイアウトがいくつも設定できる テストには もってこいのコースです。今日は B1?パターンを選択しました。 そしていつもとは違うメンバーもいました。 TRDのレーシングカー部門の人間です。 お願いしていた試作車が完成し、今日はシェイクダウンです。 そのためにレーシングドライバーも来ていました。

まだ、開発中の試作車なのに、そのレーシングバージョンが完成したのです。 あの日のレーシングチェイサー体験を、開発メンバーに味わって欲しくて創ったクルマ 走りを今までとは違う次元で、自らが体験して、開発車に織込むこと! そのための特別な試作車です。

V84ドアのレース、DTMカーをお手本に、TRDで空力を煮詰めて製作した真っ黒な 本物のレーシングカーがシェイクダウンしました。 シェイクダウンドライバーのD氏も順調に周回し、問題ないことが確認されると レクサスマイスターのMさんを始め、操安開発のドライバーからステアリングを握り 初レーシングカーを体感し、コックピットの暑さで真っ赤な顔で興奮しながら 体験を言葉にします。

ドライバー席に収まり、ポールリカールのコースであの日のレーシングチェイサー体験を、 思い出しながらさらに進化したレースカーを感じました。 パワーもこちらの方が倍近くあります。レーシングカーとしてのカテゴリーも違いますが あの日を思い出すには十分以上のクルマでした。

こんな試験をしている我々に、F1チームも興味津々で見ています。ついにはF1テストをしていた F1ドライバーの P氏 も我慢ができなくなってか やってきました。

まずは、試作車のステアリングを握りました。次元の違うドライビングテクニックです。 話をしながら楽しそうに周回するP氏を助手席から見てこのクルマの目標を確認できました。

パワー、ミッション、ブレーキはすごい! いままでのレクサスではないな。自分のSCとは違う、 操縦性も良い、でもここと、あそこがこうなればモット良い、少し興奮気味に話続けていました。 最後に一言、F1よりギヤ段が多い8速なんだ・・・・。

で、あっちも乗りたい・・・。指差す先には真っ黒なレーシングコンセプト。 レーシングコンセプトに乗ったP氏は数周で一度確認するように戻ってきました。 再び走り出し、楽しむように周回を重ね、ラップタイムもだんだん削られてきました。 タイムが落ち着く様になってからピット戻ってきて、 これでレースやるなら運転するよと言ってF1のテストに戻っていきました。 でも、しばらくすると、またやって来てもう一回良い?とまた走りに行ってしまいました。

さすがTRDです、レーシングコンセプトは問題もなく順調に走行を重ね、。 この日のうちに このクルマを創った目的を達成し始めていました。 日本のメンバーも、欧州技術の現地メンバーもかわるがわるにドライバー席や このクルマの目的のために特別にしつらえた助手席に乗り込み走りつづけました。

シェイクダウンのはずが、1日で350kmも走り込んでしまったのです。 走行を終えたレーシングコンセプトは 片付けられて 日本へと運ばれていきました。 日本についたレーシングコンセプトは、FSW、オートポリス、に持ち込まれ ポールリカールで乗れなかったメンバーが試乗した。 最初はしり込みしていたメンバーも、一度乗ると 降りてこない。 乗りやすい、楽しい 乗心地も良い 体で理解したあの日と同じ。

追記:今レーシングコンセプトは 日本の某所で 眠っている。誰か起こして欲しい。


LEXUS IS F 開発備忘録 目次はこちら

これから順次アップしていきます。
2015~2016年カートップ誌に連載していたストーリーの原文になります。あえて当時書いたままの文章です。

投稿者プロフィール

office F.Regulus 矢口幸彦
office F.Regulus 矢口幸彦
元トヨタ自動車株式会社 IS F, RC F, GS F開発責任者 矢口幸彦
個人事務所ならではの『One to One』のサービスで、ワクワクしながら笑顔になれる働き方をお手伝いします。