1)瞬間:2007年IS F誕生とコンセプトの原点にある2台のチェイサー

瞬感

ラインオフ
2007年12月26日 愛知県田原市にある トヨタ自動車 田原工場の3Eラインから 1台のクルマが
送り出されて、監査工場へと運ばれた。

待ち構えるのは、検査のエキスパートとそれを見守る開発エンジニア達。
検査員が静的な車両検査を行い、それが終わるとテストコースへと走り出す。
満足そうに戻ってきた検査員に代わって、工場長の I常務役員が乗り込み
テストコースへと走っていった。

工場長の戻るのを待つ、エンジニア達。そこには開発をスタートさせた ZLFのメンバーも居た。
工場長が戻り、田原工場の各製造部門からの完成車報告が終わった。静寂の時を打ち破るように
「出荷を許可する!」 工場長の最終判断がくだり、ここに一台のクルマが世に新たに送り出された。

そのクルマが、レクサス初のプレミアムスポーツ ”LEXUS IS F” である。
長かった・・・・本当にできてしまったな・・・思わず目頭が熱くなった。
そこに集まっている、開発エンジニアや工場関係者に「ありがとう」と 礼を言いながら
あの日を、思い起こしていた。

2台のチェイサー
2000年8月の終わり、場所は九州 大分のオートポリスサーキット。
1995年から性能開発のまとめ役として担当していた、チェイサーツアラー系を世におくりだし
その後も、いくつかのプロジェクトを担当後に、第一企画部に移り
新しい企画への提案を考えていた時であった。

そこには、そのために創られた、一台のクルマがあった。

2台の特別なチェイサー


トヨタのスポーツモデルの定番色であるモスグリーンに塗られたチェイサーツアラーVである。
だが、そのクルマはノーマルのチェイサーツアラーVとは大分違った外観をしていた。
TRDのエアロパーツに身をかため、前後のフェンダは大幅に拡幅されていた。
エンジンはノーマルの2.5L1JZ-GTEから3Lの2JZーGTEに、TMはノーマルの5速から
ゲトラクの6速に、Fr,Rrサスペンションもサブフレーム含め、
馴染みある、JZA80スープラの物にそっくり入れ替えられた、改造車である。
(私はJZA80にヤマハ製のRIASサスを搭載する最後の改良も担当していた。)
このクルマは当時 チェイサーツアラーVを開発していた、テストドライバー達が自ら図面を引き、
定盤にクルマを固定し、自ら改造した クルマである。 
そのクルマはスーパーチェイサーと呼ばれていた。


でも、そこにあるクルマはそれ1台だけではなかった。
もう,一台 TRDのレースメカニックによって暖気され走行準備をされているクルマがあった。
チェイサーのレーシンングカーである。
JGTCの最後のチャンピオン車となったそのクルマ
Esso タイガーカラーに塗られたレースカーそのものである。
宣伝部所属の保管車両を、この日の為にTRDに依頼した走れるように整備して持ち込んでいたのである。

この2台のチェイサー?をテストドライバー達と、オートポリスで乗り比べていた。
それは、衝撃の一日だった。
スポーツセダンを作る以上は、世界に通用するものを作りたい。スーパーチェイサーはそれに
対する答えに充分になっていると実感していた。 
このまま,世に送り出したい。次期チェイサーツアラーVの目標はこれだと確信した。

が、それ以上に驚いたのは レーシングチェイサーの楽しさであった。
確かに、スタートは難しかった。何度もエンストをしてやっとの思い出スタートすると
後は、もう驚きと楽しさの連続だった。
(腕のない人間にとって、クルマの性能のほんの一部を味わったに過ぎないが)

パワーステアリング付きのステアリングは軽く、シーケンシャルシフトは面白い様にきまり
強力なブレーキは慣れないとコーナ手前で再加速を必要とした。
エンジンは300psしかないのでパワーにはビックリしなかったが、そのレスポンスは鋭かった。
初めて体感するスリックタイヤのグリップはとんでもなく高く、コーナは思いどうり・・・・
当然スピンなどする車速では走れないが、どんな操作も受け付けてくれた

素人でも、こんなに楽しくサーキットが走れるんだ! 何時か、こんなクルマが作りたい!
多くの人と,今日のこの感覚を共有できるクルマを。大きな見果てぬ?夢の始まりであった。
クルマで走ることが好きだった(腕はないが、下手の横好き?)エンジニアの夢。
それは、多くのエンジニアやクルマ好きの夢と なんら変わらない夢でもあった。


LEXUS IS F 開発備忘録 目次はこちら

これから順次アップしていきます。
2015~2016年カートップ誌に連載していたストーリーの原文になります。あえて当時書いたままの文章です。


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これから順次アップしていきます。
2015~2016年カートップ誌に連載していたストーリーの原文になります。あえて当時書いたままの文章です。

投稿者プロフィール

office F.Regulus 矢口幸彦
office F.Regulus 矢口幸彦
元トヨタ自動車株式会社 IS F, RC F, GS F開発責任者 矢口幸彦
個人事務所ならではの『One to One』のサービスで、ワクワクしながら笑顔になれる働き方をお手伝いします。